パキスタンで3月初め、子どもにポリオ(小児まひ)の予防接種をしなかったとして、477人の親が逮捕されたと報じられた。ポリオが猛威をふるうパキスタンだが、その大きな原因がワクチン接種率の低さだ。武装勢力が予防接種を妨害して感染が拡大しているとされるほか、親も「不妊になる」など迷信を理由に拒否しているケースがあるという。
WHOは昨年5月、パキスタンからの出国者に予防接種証明書の携行を義務づけるよう、同政府に要請したが、徹底されなかった。そのため、国際監視委員会は昨年10月、接種証明をもたないパキスタンからの渡航者の入国拒否を各国に求める厳しい勧告を出している。
ポリオの感染拡大は予防接種によってしずめることができるだけに、パキスタンは国際的な批判をうけていた。そのため、感染拡大地域で、親の逮捕という強硬策に出たようだ。
一方、日本でも「自然に免疫を獲得したほうがよい」などと考えて、子どもにワクチンを打たせない親が少なからずいる。では、予防接種をさせない親には、なんらかのペナルティがあるのだろうか。鈴木沙良夢弁護士に聞いた。
●予防接種は「努力義務」強制力はない
「日本において予防接種について定めているのが、予防接種法です。予防接種法では、予防接種の対象者は予防接種を受けるよう努めなければならないとされていますが(予防接種法9条1項)、これはあくまで努力義務であり、強制力はありません」
鈴木弁護士ははじめにそう指摘した。
「また、予防接種の対象者が16歳未満か、成年被後見人である場合、法律や政令で決められた疾病の予防接種については、保護者が、予防接種を受けさせるために必要な措置を講ずるよう務めなければならないと定められています(第9条2項)。
このように日本においては、法律上、子供に予防接種を受けさせるよう、保護者に義務づけたものはありません。したがって、パキスタンの例にあるように、予防接種を子供に受けさせなかったことによって保護者が逮捕される、ということはありません」
●かつては予防接種が「法的義務」だった
一方で、保育園や幼稚園の入園時に、予防接種の記録を確認されることも珍しくはない。たとえば「予防接種を受けていない」ことを理由にして、保育園、幼稚園、学校が子供の入園を拒否することはできるのだろうか?
「かつて日本でも、1994年までは予防接種が法的義務とされていたのですが、当時の予防接種禍訴訟の影響で、努力義務になったという経緯があります。これは、ワクチンの予防接種によって生命・身体に影響が生じる可能性を否定することができないので、法律で強制をすることはできない、という考え方によるものだと思います。
法律上義務づけられたものではありませんので、予防接種をしていないことを理由に学校側が入学を拒否した場合、学校側の対応は違法ということになるでしょう」
しかし、ワクチンを打たないことで、重症化すれば命にかかわったり、後遺症を残す病気もある。子どもにとって何が最善であるかを考える義務も親にはあるのだろう。