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NHK「やらせ疑惑」調査委の中間報告で示された8つの「検証ポイント」(全文)
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NHK「やらせ疑惑」調査委の中間報告で示された8つの「検証ポイント」(全文)

NHKの看板番組「クローズアップ現代」の報道で「やらせ」があったのではないかという疑惑について、内部調査を進めているNHKは4月9日、中間報告を公表した。中間報告の文書は、NHKのウェブサイトでも公開されている。

中間報告によると、NHKの記者が取材対象者の男性に対して、演技をするように依頼したかどうかについては、男性と記者との話に食い違いがあるという。一方、取材場所を説明するコメントに誤りがあり、取材の裏付けが不十分だったと認めている。

今回の中間報告では、「記者は演技を依頼したか」「撮影場所は『活動拠点』であったか」など、8つの検証ポイントについて、現時点での調査結果が簡潔にまとめられている。その内容はどんなものか。以下、全文を掲載する。

●「クローズアップ現代」報道に関する中間報告

平成27年4月9日

「クローズアップ現代」報道に関する調査委員会

本委員会は、平成26年5月14日に放送した「クローズアップ現代 追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」(以下、「クロ現」)に対して、いわゆる「やらせ」があったとの指摘を受けて設置された。調査チームから報告のあった、現時点での調査の状況と検証のポイントを公表する。

1)調査の概要

・当該「クロ現」は、多重債務者を出家させて名前を変えさせ、金融機関から多額の住宅ローンを騙し取る「出家詐欺」の実態と背景に迫り、その対策を探ったものである。

・調査では、「クロ現」、および「クロ現」に先立って4月25日に関西ローカルで放送した「かんさい熱視線 追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」(以下、「熱視線」)について、取材・制作を担当した職員11人と外部スタッフ3人から聞き取りを行い、インタビュー素材や取材メモ等の資料を調べた。

・また、番組で「出家を斡旋するブローカー」と紹介した男性(以下、A氏)や「多重債務者」と紹介した男性(以下、B氏)など、外部の3人からも聞き取りを行った。A氏からの聞き取りは、双方の弁護士立ち会いの下で実施した。

・なお、上記の2番組に関し、A氏の代理人弁護士より、「記者の指示によるいわゆる『やらせ』があり、A氏がブローカーとして放送された」として、放送での訂正を求める「申入書」が提出されている。

2)取材から撮影までの経緯

・番組は、26年2月、大阪放送局と京都放送局の取材チームが、大津市の寺を舞台とした「出家詐欺」事件を取材するなかで、企画・提案された。

・このうち大阪放送局の記者が、関係者取材を進めていたところ、知人で多重債務者であるB氏より、「『出家する方法』について、近くA氏に相談に行く」と聞かされた。

・B氏によれば、以前A氏から、袈裟を着て首から数珠を下げたA氏本人の写真を見せられ、「出家」を誘われたことがあったという。

・これを聞いた記者は、B氏がA氏に相談する場面を撮影できないかと考え、B氏を通じて打診したところ、B氏から「A氏の了解が得られた」との連絡があった。

・4月19日、大阪市内のビルの一室で、まずB氏がA氏に相談する場面、続いてA氏のインタビュー、B氏のインタビューの順で撮影が行われた。

3)記者とB氏およびA氏との関係

・記者によれば、B氏とは8、9年前に知り合ったという。B氏が事業に失敗して多額の負債を抱えるようになった後も「事情通」として付き合いを続けていた。

・記者は、25年10月頃、B氏から「寺関係の事情に詳しい人物」としてA氏を紹介された。

・その後、記者は、番組の撮影当日までA氏に会っておらず、連絡もとっていない。撮影の打診などのやりとりはすべてB氏を通じて行ったという。

4)検証のポイント

●記者は演技を依頼したか

・撮影当日の4月19日午後、記者はB氏とともにタクシーでA氏を自宅まで迎えに行き、大阪市内のホテルのカフェに立ち寄って15分ほど打ち合わせをした。

・A氏によれば、この場で記者から、「A氏がブローカー役を、B氏が多重債務者役を演じるよう依頼された」という。

・一方、記者は、撮影の事前説明として、音声を変えて映像も加工することなどを説明したもので、「演技の依頼はしていない」と一貫して否定している。

・また、B氏も「記者が演技を依頼したことはない」と話している。

・A氏の話と、記者及びB氏の話は大きく食い違っている。

●撮影場所は「活動拠点」であったか

・「クロ現」では、記者がビルの一室を訪れる場面で、「看板の出ていない部屋が活動拠点でした」とコメントしている。(※「熱視線」ではこのコメントはない)

・この部屋についてB氏は、「知人男性が借りている部屋で、鍵は自分が預かっていた」と説明した。知人男性も聞き取りに対し、「(ブローカーの)活動拠点ではない」と明言した。

・B氏は、「A氏から撮影のOKが出たが、『場所を見つけてくれ』と言われ、自分が場所を決めた。記者はあずかり知らない」と話している。

・記者は、「そうした経緯は知らなかった。「クロ現」の制作の際、『相談に行った場所は(ブローカーの)拠点でよいか』とB氏に尋ねたところ、『A氏に確認する』とのことだった。その後、B氏から『それでいい』と打ち返しがあったので、番組で『活動拠点』と表現した」としている。

・相談場所の設定に記者の関与は認められないが、「活動拠点」とコメントしたことは誤りであり、裏付けが不十分であった。

●A氏を「ブローカー」と伝えたことについて

・記者は、B氏より、「『出家する方法』について近くA氏に相談に行く」と聞かされたことから、B氏がA氏に相談する場面の撮影を申し入れた。

・4月19日の撮影当日、記者ら取材班は、B氏がA氏に相談する場面を約19分間、A氏の単独インタビューを約40分間撮影した。

・相談場面の映像の中でA氏は、「得度」「度牒」「僧籍」などの専門的な用語を用いながら、出家による名前変更の方法や費用、家庭裁判所における手続きが必要であることなどを説明している。

・単独インタビューの中でA氏は、自分のことを「われわれ」や「われわれブローカー」と呼び、また、「出家詐欺」の舞台となる寺や住職の見つけ方や勧誘方法、多重債務者を説得する際の言葉の使い方などを詳しく解説している。

・記者は、A氏が「出家詐欺」の手口を詳細に語り、自らを「われわれブローカー」と称したことなどから、ブローカーに間違いないと思ったという。

・これに対してA氏は、自分がインタビューなどで語ったのは、数年前、知人の住職に師事して寺に出入りしていた時に見聞きした知識や、十数年前に知人から聞いた「出家詐欺」に関する話などであり、自分はブローカーではないと話している。

・記者の認識とA氏の主張は大きく食い違っている。

●指摘された場面の構成について

・記者によれば、一連の取材は、「多重債務者」であるB氏から、「A氏に出家詐欺の相談に行く」と聞いたことをきっかけに始まり、B氏にA氏との交渉を依頼し、相談の場面を撮影するという流れで行われている。

・ところが、番組のコメントと映像は、記者がまずブローカーの存在を突き止めてインタビューを行い、更にブローカーの元を訪れた多重債務者との相談を取材し、相談後に債務者を追いかけて、犯罪につながる認識はないかを質す流れになっている。

・視聴者の多くは、記者はブローカーから了解を得た上で、多重債務者が相談に現れるのを待って撮影したと、実際とは異なる取材過程を印象づけられたと思われる。

・構成が適切さを欠いていなかったか、演出が過剰ではなかったか、という観点から、検証をさらに進める必要がある。

●相談場面の撮影について

・B氏がA氏に相談する場面は、斜向かいのビルの屋上からブラインド越しに撮影され、音声は室内に置かれたマイクから無線で飛ばす方法で収録された。

・カメラマンとディレクター、音声照明マンは、ビルの屋上に移動して撮影にあたり、室内には記者が残った。

・カメラが回りはじめてからまもなく、記者が、「よろしくお願いします。10分か15分やりとりしてもらって」などと話す声が収録されている。

・B氏とA氏のやりとりが一通り終わると、記者が、「お金の工面のところのやりとりがもうちょっと補足で聞きたい」などと声をかけ、やりとりの終わりには、A氏が「こんなもんですか」と記者に話す声が収録されている。

・映像素材を見た限り、記者がやりとりの文言を指定したり、新たな内容を付け加えたりはしていない。

・しかし、番組を見た視聴者の多くは、このような形で撮影が行われたとは想像し得ないと思われる。取材、撮影の手法が適切だったかどうかの観点から十分に検証する必要がある。

●B氏が多重債務者であるのは事実か

・B氏は、数百万円の借金があると話している。番組でも「数百万円の借金を抱えた男性」と紹介し、B氏は、撮影されたA氏への相談の場面などでも、経済的困窮を語った。

・B氏から提供された債務関係の資料をNHKの職員弁護士が点検したところ、「多重債務者と言える」とのことであった。

・「B氏が分譲マンションを所有し、賃料収入がある」と一部で報じられていることについて、B氏は、「マンションは、知人が単独名義で購入したものだ」と説明した。登記簿も知人名義となっている。

●番組の取材であることを伝えたか

・A氏は、自らを撮影されたことについて、「NHKの番組取材であること、テレビで放送されることすら知らされなかった。資料映像か何かであると思った」と話している。

・記者は、「『熱視線』で放送することは、ホテルでの打ち合わせで伝えたはずだし、少なくとも撮影現場では、放送日も含めてA氏に伝えた」としている。

・ディレクターも、「撮影の際に、NHKの担当ディレクターと名乗って放送日を伝え、相談の場面を斜向かいのビルから撮影することも事前に説明した」と話している。

・カメラなどの機材には「NHK大阪報道」のステッカーが貼られていた。

・ただ、「クロ現」で全国放送することについては、記者は「B氏を通じてA氏に伝えたつもりだが、実際にA氏に伝わったかは確認はしていない」と話している。

●口止めの依頼などはあったか

・A氏は、今年3月に週刊誌で報じられる直前に「『記者が口止め料を払うと言った』とB氏から聞かされた」としている。

・これについてB氏は、「話が週刊誌に出ると騒ぎになると思ったので、『足代を払うから止められないか』とA氏に電話したのは確かである。私が払うのは変だから、『記者が払う』という言い方をしたかもしれない。私の独断であり、記者は関係ない」と述べた。

・記者は、「B氏にそのようなことは頼んでいない」と口止めの依頼を否定した。

・さらに、記者とB氏が27年3月1日に大阪市内のホテルでA氏と面会した際、記者がA氏に「シラを切って下さい」と言った、と報じられている。

・これについて記者は、「A氏から『自分が番組に出たことが人に知られた』と言われたが、音声や映像を何重にも加工したので特定されるはずはないと思い、取材源を守る意味で、『シラを切ってください』とお願いした。“やらせ”を否定してくれという意味ではない」と話している。

5)今後の対応

・取材・制作のプロセスや放送内容が適正だったのか、関係者の話が食い違う点を中心にさらに事実関係を明らかにするための調査を進める。ポイントとなるNHK関係者や外部の方からの聞き取りにあたっては、調査の公平性・透明性を高めるため、外部委員の所属事務所の弁護士に立ち会ってもらう。

・番組の取材・制作のチェック体制についても調査を進める。取材内容に見合った妥当な構成や演出であったのか、視聴者に誤解を与える表現はなかったのかについても調査を深めていく。さらに改善策も検討する。

・調査にあたっては、引き続きヒアリング内容や関係資料を外部委員にすべて開示し、その都度ご意見をいただき、透明性のある調査に努める。

・自ら徹底的に調査し、視聴者に説明することは放送事業者としてのNHKの責務である。調査はスピード感を持ってすすめ、「調査報告書」は、改善策も盛り込んだ上で、できる限り早い時期にまとめて公表する。「調査報告書」については、外部委員の「見解」をいただき、あわせて公表する。

以上

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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