「私が妊娠したことを職場の上司が他の社員に言いふらしていて困っている」ーー。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、業務上必要な人以外には一切言わないでと告げていたのに、上司が口外している状況に不満を持っています。上司としては「妊娠しているので無理をさせないよう、他の社員の理解と支援を得るため」に口外したということです。
上司の行為は、プライバシーの侵害やハラスメントにあたるでしょうか。村上英樹弁護士に聞きました。
●妊娠事実は「デリケートな事柄」
ーー口外してほしくない意思を明示しているのに、承諾なく他の人たちに告げる行為について、どう考えますか
「言いふらした相手の範囲など状況によっては、プライバシー侵害やハラスメントにあたる可能性があります。
まず、妊娠をしているという事実はデリケートな事柄であってプライバシーであるといえます。実際、妊娠初期の場合は流産の可能性もあり余計に、必要以上に他人に知られたくはないはずです。
そうであるのに、本人が口外してほしくない意思を明示しているにもかかわらず他人に告げるのはプライバシー侵害になる可能性があります。これは、セクハラあるいはマタニティハラスメント(マタハラ)の問題でもあります」
ーーではどのような場合ならハラスメントにあたらないでしょうか
「相談者も『業務上必要な人』については承諾しており、上司も『他の社員の理解と支援を得るため』と言っているように、業務の中で調整が必要な事柄に関わる範囲での伝達は許されるでしょう。
従って、相談者と同じ部署や、相談者の仕事と密接に関わりのある立場の人などについてだけであれば、上司が妊娠の事実を告げるのはプライバシー侵害やハラスメントにはあたらないと思います。
これに対して、特に業務上必要のない相手に、単なる噂話のような形で言いふらすとすれば、これはプライバシー侵害およびハラスメントに該当することになるでしょう」
●法的には慰謝料請求も
ーー相談者はどのような手段を取ることができますか
「自分の意に反して必要外に妊娠の事実を言いふらされた場合には、法的にはプライバシー侵害を理由に慰謝料請求をすることも考えられます。ただし、同じ職場にいて慰謝料請求の裁判などを起こすことは通常は避けたい場合がほとんどでしょう。
まずは、(1)上司に対してそれ以上口外することをやめるよう要求することや、(2)職場のセクハラ(マタハラ)の相談窓口に相談することなどにより、被害を食い止めることを考えるのが良いと思います。
世代や感覚の違いなどから、上司がデリカシーなく妊娠の事実を言いふらすケースも多いと聞きますが、話せばちゃんと理解が得られることもあります」