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実父から「性的虐待」受けた女性、実名・顔出しで活動「子どもたちに手を貸して」
塚原たえさん(撮影:渋井哲也)

実父から「性的虐待」受けた女性、実名・顔出しで活動「子どもたちに手を貸して」

子どものころに実の父親から性的虐待を受けた女性が、性暴力から身を守るための「ヘルプカード」を作成した。現在、子どもたちに配布しようと学校などに働きかけている。

この女性は、塚原たえさん(52)。前回の取材では匿名だったが、今回は実名・顔出しで応じた。記事になったことで、さまざまな思いが湧き上がり、実名・顔出しで活動するようになったという。

「性的虐待の加害者である父親に『あなたのせいでこうなった』と見せたいと思った」。そう話す塚原さんは現在、性的虐待の「公訴時効」撤廃を求める活動をしている。(ライター・渋井哲也

●「虐待に気づいた大人は踏み込んで手を貸して」

ヘルプカードの表面には、子どものイラストと「まもってください」という言葉や、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの電話番号「#8891」が記されている。

カード裏面は「こどものみんなはかならずよんでね」「しらないひとには、ついていかない」「こわいときやふしぎなときは、おとなにはなす」と書かれている。

A4用紙を10等分に印刷したもので、授業の一環として子どもたちに配ってもらい、自分で切り取ってカードケースにいれるまで指導するよう、学校に求めている。なぜカードを考えたのだろうか。

「私は子ども時代に誰にも助けてもらえませんでしたが、今、苦しんでいる子どものために何ができるのかと思ったときにカードを思いつきました。虐待に気づいた大人は踏み込んで手を貸してあげてほしい」

ヘルプカード 塚原さんが作ったヘルプカード

●「父親には、きちんと『罰』を受けてほしい」

塚原さんは小学3年のころから、実の父親から性的虐待を受けていたと記憶している。身体を触られるのは当たり前で、風呂に一緒に入ったとき、父親は塚原さんの下半身に指を入れてきた。

そして小学5年のころ、初潮のお祝いの夜、父親に無理やり性交をされた。当時、塚原さんは「何をされているのか」という認識はなかったが、激痛があった。

「性的虐待とか性犯罪では、小児を狙ったものが多い。犯罪統計に出ている数字は氷山の一角です。私もそうでしたが、子ども自身が何をされているかわからず、被害の認識がありません。そのため表に出にくい。

0歳児が性的虐待を受けていることもあります。病院で性的虐待の診断がつくこともあるんですが、逮捕はされません。子どもの証言が取れないからです。わかりきっていても何もできないんです」

子どもに対する性的虐待の実態を知ってもらおうと、前回の取材後、自分で決意して実名と顔出しを始めた。YouTubeやネットテレビの番組にも出演したり、講演に登壇したこともある。

「実名や顔出しにしたのは、一番は父親に見せたいからです。父親はまだ反省をしていないので、『あんたのせいでこうなった』と知らせたいと思っています。

父親からの反応は直接ありません。SNSで住所の一部を書いていたことがあったんですが、それを見た人が父親の住居に嫌がらせをしたようです。落書きやものが壊されたようです。

私は直接そんなことできませんし、やってほしいとは思っていません。しかし、私ができないことをしてくれたという気持ちは少なからずあります。父親には、きちんと『罰』を受けてほしい」

●今回の取材は「弟の命日」の翌日だった

塚原さんには弟もいたが、同じように父親から性的虐待を受けていた。肛門性交や口腔性交をさせられたり、塚原さんが父親から性的虐待を受けている場面を見せられたりもしたという。

塚原さんが弟を逃したこともあったが、児童相談所に保護されて家に戻されてしまうことが繰り返された。そんな弟は結婚したものの、30歳のときに自殺した。

今回の取材は、弟の命日(8月6日)の翌日だった。

「弟が好きな『壱岐』という焼酎と果物を仏壇に供えて、朝まで話していました。そういえば、実家の近所のお墓に、2人で段ボールを抱えて『ここで暮らそう』と言ったことがありました。

そのときに語っていたときの弟の表情を思い出しました。なんとも言えない笑顔だったことを覚えています。結局、家に連れ戻されてしまうんですが、2人で逃げたいとずっと思っていました。

小学校のころの写真と、自殺する数カ月前の写真が残っていますが、仏壇に置いていません。懺悔の気持ちになってしまうので。『わたしのせいもあるかな…』と思ってしまうんです。

夢に出てくることもあります。子どものころの私と弟がいます。父親も昔のまま。その光景を大人の私が見ています。

弟は、父親から洗濯ホースで殴られるんですが、大人の私は何もできないんです。そんな夢でうなされて、ベッドから落ちて目が覚めることもあります」

●「実名・顔出しだからこそ響いた面がある」

あえてメディアに自分の過去を「さらす」ことで、いろいろな人から連絡が来るようになった。

「被害にあっている方からも連絡がきます。まさに現在進行形の人からも。実名を出し、顔を出したからこそ響いた面があるのではないでしょうか。

もちろん、逆に、アンチも多くなりました。取材の内容を信じないのか、『ウソだろ』と言われたり、『あなたも受け入れていたんじゃないのか?』といった声が届きます。

そんなとき、リスカをしたい衝動にかられました。私が死ねばいいの?とも考えました。X(旧ツイッター)にそのことをポストしたら、フォロワーさんに止められましたよ」

塚原さんは現在、政治家とも会って、子どもの性的虐待の実態について話している。大人になってから被害に気づくことも少なくないため、「公訴時効」の撤廃に向けた活動も続けている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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