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仮釈放認められず「もう出られない」、自暴自棄になる囚人も 無期懲役の「終身刑」化に危機感
岩戸顯さんは6月まで古松園の施設長を務めていた(2024年7月16日、岡山市で、弁護士ドットコムニュース撮影)

仮釈放認められず「もう出られない」、自暴自棄になる囚人も 無期懲役の「終身刑」化に危機感

無期懲役で服役する受刑者の多くは今、獄中で亡くなっている。約1700人いる無期懲役囚のうち、2022年に仮釈放を許されたのは6人のみで、41人が死亡した。狭き門の社会復帰を果たしても頼れる人がすでにいないことも珍しくない。そんな彼らを「見放して殺してしまうのは…」と塀の外で待ち続ける人たちがいる。そして、その手助けで社会に戻った者も。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

画像タイトル 古松園の壁に掲示されている、刑務所で服役中の無期懲役囚から送られてきたはがき。「心優しい人間になるにはどうしたらいいの ねぇ教えてよ」などと詩が書かれている

●矛盾した気持ちで無期囚を受け入れ

「私は死刑存続(派)ですからね」

岡山市にある更生保護施設「古松園」の常務理事、岩戸顯(いわと・けん)さん(78)が意外な一言を発した。

「『目には目を』じゃないけど、やっぱり人を殺したら死んで詫びないけん。『罪を憎んで人を憎まず』なんてそんなきれいごとじゃ済まんですわ」

ただ、と言ってこう続けた。

「生きとる間は、自分の犯した罪を常に反省する気持ちを持っていないとだめよというのを教えてやらないかんでしょ。まぁ矛盾しとるような感じがするけどね」

更生保護施設は、刑務所や拘置所を出た後に帰る場所がない人らを一時的に受け入れて自立を支援する場所だ。

ここ古松園には全国の刑務所から問い合わせが舞い込む。無期懲役囚だけでも現在70人を超える受刑者の身元引受人になっているという。

画像タイトル 多くの無期懲役囚を受け入れてきた岡山市の更生保護施設「古松園」

●古松園で暮らした男性「チャンスもらった」

古松園は2023年秋、岡山刑務所から仮釈放された男性Aさん(69)を受け入れた。

Aさんは1980年代に強盗殺人事件を起こして無期懲役囚となり、約40年を塀の中で過ごした。

「無期懲役になった時、『死刑じゃないんだ』『もう一回やり直すチャンスをもらったんだ』と思いました。被害者には申し訳ないが、家族に(刑務所を)出た姿を報告したいと思って過ごしてきました」

出所前は「自分みたいな者が働かせてもらえるだろうか」と心配がつきなかったが、 出所直後から古松園で半年を過ごし、施設の援助もあって理解ある雇用主と出合い職を得た。

今は1Kの賃貸アパートでひっそりと一人で生活する。「辛抱強い人なんです」。そう紹介する古松園の職員の話を、Aさんは正座したまま恐縮するように聞いていた。

画像タイトル 仮釈放後に一人暮らしを始めた無期懲役囚の男性は毎日、被害者の位牌に向かって手を合わせているという(2024年7月17日、岡山県で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●「ここが一つのよりどころ」

Aさんのような無期懲役囚が仮釈放されるには、受け入れ先の確保が前提となる。しかし刑期が具体的に決まっていないがゆえに、施設側が受け入れの判断をするのは簡単ではない。

そんな中、古松園はほぼ無条件に無期懲役囚を迎えてきた。創設から130年近い歴史があり、近隣住民が役員に入っていることなどから地域で反対運動が起きることはないという。

「ここが一つのよりどころですわ。希望を持たせてやる。引き受けがないと(仮釈放許可の)箸にも棒にもかからんわけですから。出られる出られんは別として、一応レールの上には乗してやらなけん。やっぱり『矯正』ですわ。見放して殺してしまうのはどうかと思います」(岩戸さん)

画像タイトル 古松園の一角に設けられた「礼拝室」には、受け入れた後に亡くなった無期懲役囚の位牌や遺影が置かれている(一部モザイクを入れています)

●出所を前に「不安が大きくなった」受刑者

施設を出た後の暮らしも出所者が抱える課題の一つだ。

刑務所では指示された以外の行動を厳しく制限されるため、長年服役した受刑者が社会に戻って生活することには様々な困難が生じる。

先ほどのAさんもずっと社会に戻ることを夢見ながら、実際に仮釈放が決まった時、「不安の方が大きくなった」という。

こうした出所者の悩みや困りごとを早いうちに解消して安定した生活を送れるよう、古松園では利用者が施設を出て一人暮らしを始めた後も職員が本人の自宅を訪問して日常生活をサポートしている。介護が必要になった時には福祉の支援につなげる。

Aさんはまだ若く健康面に大きな問題はない。そのため、訪問支援として今は職員が話し相手になったり買い物に同行したりする程度だが、職場やプライベートで自らの過去を明かして人付き合いすることが難しいAさんにとっては貴重な機会になっている。

「こんなことじゃないと人と話すことがないので、安心して話せます」

再び塀の中に戻ることがないよう、人間関係のトラブルには細心の注意を払っているという。

「人に興味を持ってしまったらトラブルの原因になってしまう。そう考えていると、他人に対してどんどん消極的になってしまいます。これをやりたいという目標は残念ながらありませんが、働けるうちは働きたいと思います」

画像タイトル 刑務所で約40年服役して仮釈放された男性。強盗殺人事件を起こす前は「借金返済のことばかり考えていた」と話した。

●無期囚は「連合赤軍元幹部」、待ち続ける弁護士

一方、無期懲役が長期化していることを身をもって感じている「待ち人」もいる。

元検事の古畑恒雄弁護士(91)は現在、身元引受人として男女2人の無期懲役囚の仮釈放を待ち続けている。

そのうちの一人が吉野雅邦(よしの・まさくに)受刑者(76)。1972年に起きた連合赤軍による「あさま山荘事件」に関わったとして、1979年に無期懲役判決を受けた人物だ。

逮捕されてから50年近くが経つ中、吉野受刑者の両親はすでに亡くなり、知的障害がある兄は施設で暮らしている。たとえ仮釈放されても面倒をみられる人がいないため、古畑弁護士が現在、吉野受刑者の親が残した家の管理などを担い、彼の帰りを待つ。

「仮釈放されたら彼は被害者遺族へのお詫びに回りたいと言っています。今出てきても彼が再犯する可能性は全くありません」

手紙や刑務所での面会を通し、吉野受刑者に再犯の恐れはないと強く感じている古畑弁護士。

早期の仮釈放を願っているが、その見通しは全く立っていない。

画像タイトル 古畑恒雄弁護士は今、男女2人の無期懲役囚の身元引受人になっている(2024年7月9日、東京都中央区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●進む”終身刑”化 「見捨てられた犯罪者群」

法務省が2023年12月に公表した資料によると、2022年末時点で無期懲役囚は計1688人いる。2022年の1年間に仮釈放を許可されたのは6人のみで、41人が死亡した。

施設が引き受けを決めても獄死する可能性が高くなっている。中には服役から40年以上経っても仮釈放が認められず、「もう出られない」と自暴自棄になる人もいるという。

20年前後で出所できたのは今となっては昔のことだ。新たに仮釈放された無期受刑者の平均在所期間は30年超えが一般的になっており、2022年には45年3カ月まで伸びた。

こうした状況に古畑弁護士は危機感を強めている。

「今の無期懲役刑は、法律に基づかずに内部通達の運用によって密かに終身刑とされている。無期懲役囚は見捨てられた犯罪者群というような感じがします」

画像タイトル 無期懲役刑に服している吉野受刑者から古畑弁護士に送られてきた手紙。いつも同じように切手がきれいに張られているという

●揺るがぬ信念 「人間は変わりうる」

被疑者を調べる検事と、罪を犯した人の立ち直りを支援する弁護士という二つの立場を経験したが、「どんな罪を犯した人でも変わりうる」という古畑弁護士の信念は揺らがない。

「日本では無期懲役に関する情報が少ないため、無期懲役囚の心情や境遇についてあまり議論されていません。来年に拘禁刑が導入されるなど、刑事政策が今大きく変わりつつあるので、受刑者の処遇も人間味のあるものにしてほしい」

命ある限り、吉野受刑者の出所を待ち続ける覚悟だ。

※この記事は弁護士ドットコムニュースとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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