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ペットを亡くした飼い主の慰謝料はいくら? 人と比べて低すぎる実情
画像はイメージです(yoneko / PIXTA)

ペットを亡くした飼い主の慰謝料はいくら? 人と比べて低すぎる実情

愛するペットが他人にケガを負わされたり死なせたりされたら、家族としては大きな精神的なダメージを受けるだろう。では、その精神的苦痛に対して、裁判ではどのくらいの慰謝料が認められるのだろうか。

ペットは民法上は「動産」として扱われるが、裁判ではペットは家族の一員として愛情を注ぐものであり、財産上の損害にくわえて慰謝料が認められている。ただ、人の慰謝料とは大きな金額差があるのが実情だ。

ペットを亡くした飼い主の慰謝料についての裁判例をいくつか紹介する。

●ペットは「家族同様の存在」だが…

ペットが治療中、医療ミスにより亡くなってしまうケースがある。ゴールデンレトリバーが手術中に死亡した事故(令和3年10月20日大阪地裁判決)では、飼い主である原告側は「(ペットは)単なる動物ではなく、家族同様の存在」として、家族5人がそれぞれ慰謝料100万円を請求した。

判決は、家族の一員として大切に扱われてきたこと、命の危険が生じるような持病はなかったのに事故で平均寿命の半分程度で死亡したことなどから、「(ペットを)失ったことによる精神的苦痛の程度は大きい」と指摘した。

一方で、家族が仕事をしている間は家に一匹でいる状態で、ペット保険に加入していないこと、他の家庭と比べて特別に手間をかけた飼育をしていたとは認められないことなどから、慰謝料は一人あたり10万円とした。

●人と犬の平均寿命を比較できる?

ペットが不慮の事故に巻き込まれるケースもある。犬が車と衝突して死亡した事故(平成30年9月21日神戸地裁判決)では、飼い主である原告側は慰謝料50万円を請求した。

原告側は、人と犬の平均寿命とその慰謝料を比較。「平均寿命15年程度の人を仮定すると、その死亡慰謝料は約500万円と算定される。人と犬の性質の違いを割り引いたとしても、慰謝料を50万円とすることは合理的かつ妥当」と主張した。

しかし、判決は「人の死亡慰謝料は自らが死亡に至らしめられた無念さを金銭評価したもので、これを犬に当てはめることはできない」として、慰謝料20万円を認めた。

●犬がケガを負わされたら…

事故で一命を取り留めたものの、ケガを負った場合は、どう判断されるのだろうか。

飼い主が運転中に後ろから車で追突された事故では(平成27年8月25日大阪地裁判決)、車に乗っていたトイプードルが衝撃で身を投げ出され、車のカーナビ部分に衝突。トイプードルは事故後、全身の震え、食欲不振といった症状が出るようになった。

原告側は治療費などのほかに「犬に傷害を負わされたことに対する慰謝料」も請求していたが、症状が全身の震えや食欲不振にとどまっていることから、慰謝料は認めなかった。

●慰謝料の相場はいくら?

ペットに関する法律にくわしい渋谷寛弁護士は「ペットに怪我を負わされたり死なせたりされた場合、事案にもよりますが、ある程度の相場がある」と話す。

「獣医療過誤の事例(令和3年10月20日大阪地裁判決)では、原告一人当たり10万円(5人分で50万円)からバロン君事件(平成18年9月8日東京地方裁判所判決)の原告一人当たり50万円が相場と考えられます。

交通事故では、平成30年9月21日神戸地裁判決の裁判例のように、慰謝料額を20万円前後で認める裁判例があるようです。交通事故により死亡した事例で30万円以上の慰謝料を認めた裁判例は極めてまれだと思います。獣医療過誤の事件に比べると、慰謝料額の相場は低めになると思います」

●人と比べてはるかに低い慰謝料額

渋谷弁護士によると、ペットの飼い主の精神的苦痛に対する慰謝料は少なくとも昭和30年代から裁判例で認められているという。しかし、子どもが亡くなった場合の親の慰謝料が約2000〜2500万円であるのに比べて、はるかに低額なのが実情だ。

その理由として「裁判官の認識としては、ペットは、法律上はそもそも動(産)に分類される。人とペットでは価値として大きな差があるとの価値観が根底にあるのではないでしょうか」と話す。

「物の損害賠償については、時価相当額の賠償をすれば慰謝料を賠償する必要はないというのが原則になると考えられています。愛玩動物であるペットの場合は、時価がない、もしくはあっても低額である、時価賠償だけでは飼い主の精神的苦痛は慰謝されないと考えられています。

過去には、商品としてのペットに過ぎないからと、慰謝料を認めなかった裁判例もあります。ペットに関する慰謝料額を左右するのは、飼い主のペットへの愛情、こだわりの深さだと思います」

●慰謝料額は高額になっていく?

ペットを亡くした飼い主の慰謝料は、昭和の時代から認められているものの、ペットブームの現在においても高額化している状況とはいえない。渋谷弁護士はペットの価値が高まる中、慰謝料が高額化することも考えられると話す。

「少子化や、子をもうけにくい状況下において、ペットの存在は、家族の一員として一段とかけがえのないものとなっているでしょう。

最愛のペットの突然死に遭遇した飼い主の精神苦痛はとても甚大です。ペットを失った飼い主の中には、人の子の死亡の場合と同等の慰謝料額が認められるべきと考えている人もいます。今後の裁判では、飼い主に対する慰謝料額がより高額になるかもしれません」

プロフィール

渋谷 寛
渋谷 寛(しぶや ひろし)弁護士 渋谷総合法律事務所
1997年に渋谷総合法律事務所開設。ペットに関する訴訟事件について多く取り扱う。ペット法学会事務局長も務める。

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