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命を守るはずの児相で起きる悲劇 元職員「無断外出や事故は子どもからのSOSだ」
背景:Graphs / PIXTA

命を守るはずの児相で起きる悲劇 元職員「無断外出や事故は子どもからのSOSだ」

名古屋市の西部児童相談所内で2022年11月8日、一時保護された少女が建物3階のトイレから転落死するという痛ましい出来事が発生した。子どもの命・安全を守る児童相談所でいったい何が起きているのだろうか。

たとえば、仮に子どものとった行動の背景に「虐待」があったとすれば、どれほど危険であろうと必死に施設から逃げ出そうとするかもしれない。

子どもたちの行動には、時に子どもたちなりの必死なサインが潜んでいることがある。本稿では、2022年に判明した児童相談所・一時保護所における「事故」からみえる子どもたちからのSOSについて考える。(ライター・飯島章太)

●「無断外出」は「子どもたちからの必死なサイン」

名古屋市西部児相の事故の後、児相に一時保護された子どもたちの事故の報道が続いた。

ここでは、10年前にも一時保護中の少女がベランダから転落して手首を骨折する事故が起きていた。少女は「自宅に戻ろうとした」と話したという。また、滋賀県大津市の児相では2020年に一時保護していた少女がトイレから施設を出て、橋から琵琶湖に飛び込んで大けがしていたことも報じられた。

児相の一時保護所では、子どもたちが職員の付き添いなく出ることを「無断外出」と呼んでいる。「無外(むがい)」と略すことも多い。この「むがい」は珍しいことではない。

一時保護所の運営において、「むがい」をした子どもたちへのケアは重要な対応の一つだ。厚生労働省が2018年に発出した、一時保護所の運営方針を示す「一時保護ガイドライン」には、「Ⅴ 一時保護生活における子どもへのケア・アセスメント」の中に「5 特別な状況へのケア (4)無断外出」という項目がある。そこでは無断外出が子どもたちからの重要なサインであることが記されている。

「そして職員は、無断外出などの行動上の問題は子どもからの必死なサインであり、そうせざるを得なかった気持ちなどに寄り添いつつ、子どもからの説明にじっくりと傾聴し、様々な感情を受け止めていくことが必要である」(一時保護ガイドライン39ページ)

無断外出した子どもたちは、その行動を通じて必死にサインを残している。職員はむしろ、なぜそうせざるを得なかったのか、子どもたちの言葉を聴き、ケアしていくことが必要だと伝えている。前述の転落事故でも、子どもたちは必死に何かサインを発していたと考えるべきだろう。

●見過ごせない一時保護所の「虐待」

では子どもたちはなぜサインを送っていたのか。

子どもの命・安全を守る児童相談所・一時保護所から出ざるを得なかったということは、その施設が自分の命や安全を守ってくれる場所と思えなかったためではないだろうか。万が一の可能性として、子どもの命・安全を守る児童相談所・一時保護所で絶対に起こしてはいけない「虐待」の有無についても頭に置いておくべきだろう。

一時保護所における虐待は、2009年以降、厚生労働省が件数をとりまとめており、一時保護委託の件数を含めて年間5〜10件ほど報告されている。以下は、厚労省の公表資料に記されている令和元〜2(2019〜2020)年に起こった例だ。過去にあった「虐待」事例を知ることは、子どもたちが安心できる一時保護所のあり方を考えることにつながる。

1 身体的虐待

もちろん殴る、蹴る、叩くなどの行為は当然虐待であるが、一時保護所ならではの特徴的なものも存在する。

・『個別支援プログラム』において、廊下の雑巾がけを13往復させられたことが確認された。
・別の子どもについても、 走り回ったりふざけたりして注意をしても言うことを聞かなかったため、5分間以上カーテンを閉めたまま明かりも付けない暗い居室に一人ぼっちで閉じ込めるなどした。

トラブルなどを起こした子に対して、「指導」や「支援」などと称される雑巾がけや居室への閉じ込めなどの身体的な罰が認定されている。

2 心理的虐待

言葉による脅し、無視(ネグレクト)などは虐待にあたるが、一時保護所では生活場面での怒鳴り声などが心理的虐待として認定されることが多い。

・怒鳴ったり、生活上のわからないことに対する質問に対して「自分で考えろよ」との発言があった。
・職員の再三の注意にもかかわらずいたずらをした子どもに対し、「なめているのか」「いい加減にしろ」等の言葉を使って大声で叱責をした。
・職員から「おまえ」と発言することがあった。

子どもに対する言葉の内容の暴力性を考慮して心理的虐待として認定されることが多い。生活のトラブルだけでなく、日常的に虐待だと職員が認識せずに繰り返されているケースも多い。

一時保護所での「虐待」は絶対にあってはならない。一カ所でも起きれば一時保護所そのものの信頼を揺るがすだろう。そのため「虐待」が起きていない一時保護所においても、上記のような「虐待」の背景を考察し、予防し、「虐待」を二度と起こさない仕組みを整えた、安全で安心な一時保護所のあり方を考えるべきだろう。

●自治体は「一時保護所のあり方を考えてほしい」

繰り返しになるが、「むがい」は子どもたちのSOSのサインである。子どもたちの「そうせざるを得なかった気持ち」を考えるためには、どの場面で命・安全を守る一時保護所でいられないのかについて向き合う必要がある。

転落事故が起こった名古屋市は、2023年度に実施予定の「一時保護所のあり方調査」に予算600万円を投入するようだ。

一時保護所での事故・虐待を二度と繰り返さないためにも、自治体は調査等に予算を割くなどして、一時保護所を経験した子ども・若者たちの言葉やサインから、一時保護所のあり方を考えるべきときだ。

【筆者プロフィール】飯島 章太(いいじま しょうた):千葉県出身。中央大学法学部、中央大学大学院社会学専攻を卒業後、千葉県庁の児童相談所に就職し2021年11月に退職。現在は地域や児童福祉のライター・取材活動をしながら、「支援者の支援」の活動を続けている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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