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取り調べで「ガキ」検察官発言は違法、黙秘権問う訴訟で国に賠償命令、判決は「第一歩」
左から宮村啓太弁護士、江口さん、趙誠峰弁護士、髙野傑弁護士(2024年7月18日/弁護士ドットコム撮影)

取り調べで「ガキ」検察官発言は違法、黙秘権問う訴訟で国に賠償命令、判決は「第一歩」

刑事事件の取り調べで黙秘したところ、検察官から「ガキだよねあなたって」などと侮辱的な言葉を投げかけられたとして、元弁護士の江口大和さんが国に1100万円の損賠賠償を求めた訴訟で、東京地裁は7月18日、違法な取り調べがあったと認め、110万円の賠償を命じる判決を言い渡した。

憲法で保障される「黙秘権」を侵害したとして、捜査機関の取り調べのあり方を問う裁判。

江口さんは「判決では、黙秘権の行使を馬鹿にする発言や何とかして供述を得ようとする発言。これらについて、許されないと判断されました。良かったと思います 」と評価する一方で、「説得と称して、56時間に渡り取り調べを継続したことについては違法ではないと判断されました。このことには納得できません」として控訴する考えを示した。

●「もともと嘘つきやすい体質」侮辱的な発言

原告の江口大和さんは2018年、犯人隠避教唆の疑いで横浜地検特別刑事部に逮捕された。直後から一貫して無罪を主張したものの、有罪判決が確定し、弁護士資格を失った。

訴状などによると、黙秘した江口さんに対して、取り調べを担当した川村政史検察官からは「社会性がやっぱりちょっと欠けてるんだよね」「もともと嘘つきやすい体質なんだから」「詐欺師的な類型に片足突っ込んでると思うな」などの発言があったという。

原告側は、計21日、計56時間にも及んだ取り調べも、供述の強要にあたり、違法だと主張していた。

裁判では、上記のような発言を含んだ取り調べの録音録画映像が上映された。さらに弁護団は取り調べ映像をYouTubeにもアップした。

憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と黙秘権を規定している。弁護団は、黙秘権が保障されるためには、そもそも取り調べを拒否できるべきとの考えを主張した。

●判決の「プラス」の側面

弁護団によると、今回の判決では、取り調べで黙秘した江口さんに投げかけられた検察官の発言が人格権侵害と認められた。一方、黙秘していた江口さんに56時間にわたって取り調べを継続したことは違法ではないと判断された。

画像タイトル 江口さんと弁護団

弁護団の趙誠峰弁護士は「今日の判決は非常に評価が難しい。物足りない判決だとは思いますが、一方で、黙秘権保障に向けた第一歩と見ることもできるかなと思います」と捉える。

「今日の判決では、黙秘権について、自己の意思に反する供述をしないことだというふうに判断しました」(趙弁護士)

趙弁護士は、実際の取り調べの現場では、黙秘権を行使しようとする被疑者・被告人に、取り調べの担当者が趣味の話などを振って、なんとか供述を得ようとすることが日常的におこなわれているとしたうえで「判決がそれも黙秘権の趣旨に反するんだと判断したことはプラスに評価できると捉えました」と述べた。

「黙秘をする人に、捜査官があの手この手で事件と関係ない話やその人のプライドを傷つけたり、家族との間をさこうとしたり、ことさら不安にさせたりして、相手に反論させようとすることは今まさに全国の取り調べでおこなわれている。黙秘しようとした人に反論させようとしたことも黙秘権の保障の趣旨に反すると判断した点は非常に評価できるのではないか」(趙弁護士)

●判決の「マイナス」の側面と「録音録画の大きな効果」

一方で、黙秘の意思を表明しているのに、取り調べが56時間も続けられたことは違法と判断されなかった。

宮村啓太弁護士は「黙秘権が保障する権利主体である被疑者の黙秘権行使の意思は尊重されなければならない」と指摘した。

今回の裁判で特徴的だったのは、取り調べの様子が法廷で上映されたことだった。

弁護団の髙野傑弁護士は「録音録画制度は、違法な取り調べの問題を検証するための制度。今後も同じような事態になったときに、国賠訴訟の中で録音録画が頻繁に使われるんじゃないか」と話す。

裁判では、取り調べにおける検察官の発言がいくつも事実認定された。

「今までは、警察、検察の発言を違法だとすると、まずはそもそもそんな発言がされたのかというところから問題になっていた。今回そうではなかったのは、法廷でも映像が再生された効果に間違いないと思います」(髙野傑弁護士)

しかし、そうした録音録画の映像が裁判の中で証拠として採用されるには、長い時間が費やされ、煩雑な手続きが求められるとして、時間短縮や手続きの簡略化が必要だと訴えた。

今回、YouTubeで公開された映像は、取り調べの様子を可視化するものとしてだけでなく、その取り調べのひどさも伝えて、大きな反響を呼んだ。

趙弁護士は「あらゆる事件において取り調べを録音録画するべき」としつつも、国側が裁判の中で「多少声を荒げたかもしれないが適法だ」と主張したことを踏まえて、「カメラがあるから違法な取り調べがなくなるかというとそうではない」とし、取り調べを受けたくないという意向を示した場合には尊重されなければならいとの考えを強調した。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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