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景色やプールが自慢のホテルを楽しみにしていたのに現地についたらまさかの「工事中」…宿泊費は返してもらえる?
写真はイメージで本文とは関係ありません(buritora / PIXTA)

景色やプールが自慢のホテルを楽しみにしていたのに現地についたらまさかの「工事中」…宿泊費は返してもらえる?

夏休み到来。旅行を楽しみにしている方も多いと思います。しかし、旅行に関するトラブルも絶えず、弁護士ドットコムにも相談が多数、寄せられています。

ある相談者は、「眺望とプールが自慢のホテルでしたが、どちらも楽しめませんでした」といいます。相談者は夏休みの家族旅行で、あるホテルを予約しました。そのホテルの公式サイトには、夜景や部屋から見えるプールなどの写真がたくさん掲載され、アピールされていたため、楽しみにしていたそうです。

しかし、現地に到着すると、ホームページとはまったく異なる光景が広がっていました。

●夕日に染まる景色を見ながらディナーを楽しむはずが…

相談者が予約した際、ホテルのホームページには「一部工事中」とありました。期間が明記されていたので、相談者は念の為、工期が終わった直後の日程で宿泊することにしました。ところが、ホテルに到着すると工事はまだ続いており、プールの周囲には足場やブルーシート、さらには工事関係者がウロウロしていたとのことです。

「夕日に染まる景色を見ながら食事ができるレストランも、窓の両側が足場とシートに覆われて、夕日も見えずにがっかりでした」と相談者はうったえます。

相談者によると、宿泊日の前日にホテルからかかってきた確認の電話でも「眺望とプールが楽しみです」と伝えましたが、工事のことは何も言われなかったそうです。

「とても楽しみにしていただけに、いまだに釈然としません。ホテルに謝罪してもらうことはできますか?」と相談者。ホテル側に慰謝料や謝罪を求めることはできるのでしょうか。

●「眺望やプールはホテルとの契約内容から外れる」

「眺望やプールの使用はそもそも、宿泊者とホテルの契約の主要な内容とはいえないと考えられます」

前島申長弁護士はそう指摘し、次のように説明します。

「ホテルに宿泊を行う場合、ホテル側と宿泊者は、宿泊契約を締結します。具体的に契約書に署名・捺印をすることはあまりありませんが、宿泊契約は、諾成契約であり、口約束でも成立することになります。

また、ほとんどのホテルでは、宿泊約款や利用規約を設けていますので、基本的には、宿泊契約の内容は、宿泊約款・利用規約によることになります。

宿泊契約の主な内容は、客室を中心とした宿泊施設の利用契約となりますので、本件のように眺望を期待してホテルを予約した場合にも、眺望は、契約内容からは外れると考えるのが自然と思われます。

また、プールの使用についても、宿泊契約におけるプールの使用は、いわば付随的なサービス内容と考えられますので、ホテル側に契約解除や返金義務が発生するとまでは考えにくいでしょう」

●前日にホテル側に「眺望が楽しみ」と伝えていても…

相談者はホテルからの眺望なども含めて宿泊先を決めて、電話でもホテル側に伝えています。ホテル側に責任は生じないのでしょうか。

「そうですね。宿泊前日にホテルからの電話で『眺望とプールが楽しみですと言ったのに、工事のことは何も言われていない』点も問題になります(相談者が、眺望やプールが使えないことがわかっていたら別のホテルを取ったので電話のときにいってほしかったという気持ちはそのとおりだと思います)。

民法では、『表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が事実に反し』『それが表示されていた場合』(いわゆる動機の錯誤)について、一定範囲で契約の取り消しを認めています(錯誤取消、民法95条)。

もっとも、錯誤による取消は、錯誤が、『その法律行為の目的や社会通念に照らして重要なもの』である場合に認められています。 そのため、本件では、宿泊者が、眺望やプールが楽しみと考えていても、契約の重要な部分である宿泊が達成されていることから、錯誤取消まで認めることは難しいと思われます」

●眺望が宿泊プランに含まれていれば返還請求の可能性も

宿泊する側からは、とても厳しい「契約」ですが、やはり宿泊費の返還などは難しい?

「例外的に、例えば『眺望ブラン』や『プールプラン』など、一定の眺望やプールの使用が、プラン内容に含まれているような場合(その分宿泊代金が加算されているようなケース)であれば、眺望を望めることやプールが使用できることが宿泊契約の内容に入っていると考えることもできますので、加算された代金分について、返還請求などを検討することができると考えます。

また、多くのホテルでは、工事などで眺望が望めない部屋については、ホームページなどで事前に告知をしていますし、場合によっては、クレームをつけることでホテル側が一部宿泊代金を減額したり、別のサービスを提供するようなことがあるかもしれません。

もっとも、これは、あくまでホテル側の自主的な判断(サービス)によるものですので、宿泊者側に法的にかかるサービスの提供を求めることができる権利まではないと考えるべきです」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

前島 申長
前島 申長(まえしま のぶなが)弁護士 前島綜合法律事務所
前島綜合法律事務所代表弁護士 大阪弁護士会所属 交通事故・不動産紛争などの一般民事事件、遺産分割・離婚問題などの家事事件を多く扱う。中小企業の事業継承や家族信託などに注力を行っている。

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