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愛知中2自殺、遺書なく「詳しい調査」求める母親…学校は「いじめはなかった」
取材に応じる圭佑さんの母親(撮影:渋井哲也)

愛知中2自殺、遺書なく「詳しい調査」求める母親…学校は「いじめはなかった」

2022年9月、愛知県内の公立中学2年の男子生徒、圭佑さん(当時13歳・仮名)が自殺した。遺書はなく、遺族に思い当たる節もない。ただ、母親が気になったのは「いじられキャラ」だったこと。学校生活で何かあったのではないかと思ったが、学校側は「いじめはなかった」と結論付けた。真相を知りたい母親はもっと詳しい調査を実施するよう求めており、現在、第三者委員会の立ち上げが進んでいる。(ライター・渋井哲也

●「現実ではなく、ドラマみたいな感覚でした」

母親によると、亡くなった圭佑さんは、本が大好きで、図書館でよく借りてきては、両親や親友に紹介するようなところがあった。

部活は剣道部に所属して、成績は上の下。母親から「勉強しなさい」と言うことはなく、スマートフォンは持っていなかったという。

2022年9月24日午前7時半ごろ、母親が2階の部屋に起こしに行くと、圭佑さんはそこで首を吊っていた。

「最初、突っ立っているのかと思いました。いたずらかと思い、体を触ったら冷たいし、顔はうっ血していました。現実のこととは思えませんでした。目の前で起きているんですけど、ドラマみたいな感覚でした」

すぐに救急車を呼んで搬送されたが、死亡が確認された。母親は一時的にパニック状態になったという。だが、自宅にやって来た警察から事情聴取を受けた。

「うまく答えられないのに何度も同じことを聞かれました。それでまたパニックを起こしました。事情聴取のあとに病院へ行きましたが、(圭佑さんの遺体に)会えたのは午後1時ごろでした。すぐには会えないし、弟も泣いていて。

やっと対面できても、手を握るくらいしかできませんでした。その後、病院から体が帰ってきた午後4時か5時ごろ、校長先生たちが家に来て『他の生徒にどう伝えますか?』と聞かれました」

●「遺書はなく、変わった様子はなかった」

事故発生状況報告書 「突然の事故」として扱われていた(撮影:渋井哲也)

「自殺」という言葉は重いが、「事故」や「病気」とウソはつきたくない――。母親は学校側にそう意向を伝えた。

しかし、のちに「事故発生状況報告書」を取り寄せてわかることだが、学校側は、「自殺」ではなく「突然の事故」として扱っていた。

「自殺したことは事実なので、私たちとしては隠し立てたくないという気持ちでした。もちろん、すべての生徒の顔がわかるような関係性の学校ではありません。だから、全学年全クラスに伝えるのではなく、同じクラスなど、知らせるべき子たちがいるんじゃないかと思っていたのですが・・・」

では、圭佑さんが自殺した理由は何か。遺書もなく、悩みの相談をされたこともない。母親から見ても、特に変わった様子はなかった。

しかし、圭佑さんは、自殺に使った道具をホームセンターで購入するなど、その準備を進めていたようだ。

「学校への行き渋りはなく、部活動もしていました。(自殺の)前日も一緒に外食して、塾に行って、普通に過ごしていました。私が知らない世界は『学校』の中です。やっぱり学校で何かがあったんじゃないかと思うんです」

●学校は「いじめはなかった」と結論付けた

自殺の理由がわからないでいた母親は、校長と教員数人を除いて、葬儀の参列を断った。

「私の中で迷いの部分がありました。学校側に追及しきれていないところで、同級生の顔を見ると、ちょっと辛いなと思って。校長先生とわずかな先生だけで参列をお願いしました」

その後、学校側は、指導記録の確認と教員の聞き取りなど「基本調査」をおこなった。その結果、「いじめはなかった」という結論となった。遺族に対しては、文書でなく、口頭で伝えただけだった。

「私たち家族は、自殺リスクやSOSを見逃したことに責任を感じています。でも、学校で何かがあったのだろうと思っています。それを調べてほしいとお願いしています。圭佑を取り巻く環境の一つとして、学校も見逃していたと思います。

それにしても、いじめがないから『関係ないですよ』というような、学校側の態度が辛かったです。基本調査で、いじめが否定されたので、校長先生からは『荷が降りた』という感じを受けました」

●要望がある場合は「詳細調査」に移行することが望ましいとされるが・・・

文科省のマニュアル「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」では、すべての自殺事案で「基本調査」がされることになっている。

その後、いじめや体罰、学業、友人関係など、学校生活に関係する要素が疑われる場合や、遺族の要望がある場合には「詳細調査」に移行することが望ましいとされる。

ところが、この「指針」をきちんと遺族側に説明していないケースがあり、場合によっては、学校側が「指針」を知らないこともある。

文科省の2022年度の調査によると、基本調査は100%おこなわれているが、詳細調査について、遺族に説明したのは59.4%、実際に詳細調査をおこなったのは4.6%にすぎない。

筆者のこれまでの取材では、詳細調査まで数年かかる場合もあった。今回のケースも、詳細調査をすると決まったのは、生徒が亡くなった翌々年度のため、文科省の調査に数値が反映されていない。

母親によると、学校や教育委員会から遺族に対して「指針」の説明はなかったという。

●『いじられキャラ』が背景にあったのではないか

母親はインターネットで「指針」の存在を知り、詳細調査を口頭で要望した。なかなか実らなかったため、今年に入ってから何度か要望書を提出。その結果、教育委員会は、第三者委員会の設置を決めた。現在は、設置要綱を作っている最中だ。

「要望当初、教育委員会では『預かり』となっていました。教育委員会から学校への聞き取りで『いじめが見つかっていない』『自殺に至るほどのいじめ事案がない限り、詳細調査に移行できない』とされたのです。

学校では、校長から『指針の存在を知らなかった。要望書が出されて内容を確認したが、法的拘束力のない努力義務なので対応しなくてもよいと考えた』という回答がありました。

結局、詳細調査がされることになりましたが、誰も責めるつもりはありません。ただ、私のおぼろげな見立てとしては『いじられキャラ』が背景にあったのではないかと思います。

先生自身も圭佑に対して、どんなラベリングをしていたのか。そんな話を聞きたいです。調査委員会は、とにかくいろんな声を集める話し合いのテーブル作りだと思っています」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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