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京急百貨店で購入した伊勢定「うなぎ弁当」で「160人以上が体調不良、1人が死亡」、法的責任どうなる?
「日本橋鰻伊勢定」の公式サイトより

京急百貨店で購入した伊勢定「うなぎ弁当」で「160人以上が体調不良、1人が死亡」、法的責任どうなる?

横浜市にある京急百貨店地下1階の「日本橋鰻伊勢定」で販売した「うなぎ弁当」を食べた人のうち、140人以上が下痢や嘔吐などの症状をうったえ、そのうち1人がその後に死亡したと京急百貨店が7月29日、公表しました。その後、健康被害をうったえている人は増えており、合計161人になったとのことです。

京急百貨店と伊勢定によると、横浜市保健所の調査を受けて食中毒と断定されており、京急百貨店内の伊勢定は営業禁止処分となっています。

発表によると、7月24日から25日にかけて販売された「うなぎ蒲焼」816個、「うなぎ弁当」945個が対象となっています。横浜市の調査では、黄色ブドウ球菌が原因となったと発表されました。

風物詩となっている土用の丑の日に発生した大量食中毒。法的な責任はどうなるのでしょうか。大橋賢也弁護士に聞きました。

●被害者は損害賠償請求が可能

——うなぎ弁当を購入して食べた人のうち、160人以上が体調不良を訴えているとのことですが、伊勢定側に治療費や慰謝料などを請求することは可能でしょうか。

今回は、横浜市保健所が調査した結果、黄色ブドウ球菌が原因の食中毒と断定しているとのことなので、うなぎ弁当を製造・販売した伊勢定に、衛生管理を徹底し、食中毒を防止するという注意義務に違反した「過失」があったことの立証に成功すれば、食中毒になった被害者は、伊勢定に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができます(民法709条)。

このように、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する場合は、請求者が、製造業者の「故意」又は「過失」の存在を立証する責任を負います。このような立証責任の負担を軽減し、被害者救済を図った法律として製造物責任法があります。

同法は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に損害を生じさせた場合の製造業者の損害賠償責任を認めた法律で、被害者は、製造物に「欠陥」があることの立証を行えば足ります(製造者の過失を立証する必要がありません)。

食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌が付着したうなぎ弁当は、製造物であるうなぎ弁当が通常有すべき安全性を欠いていることになり、「欠陥」が認められます。そして、そのようなうなぎ弁当を食べたことで下痢等の体調不良になったのであれば、「欠陥」と「損害」との間の因果関係も認められると考えて良いでしょう。

したがって、製造業者が免責事由(製造物責任法4条)を証明しない限り、責任が認められることになります。

●京急百貨店側に責任は問えるか?

——体調不良をうったえた人のうち、90代女性がその後死亡したと発表されています。万が一、うなぎ弁当が原因で死亡した場合は、店側の責任はどのように問われるのでしょうか。

まず、民事上の責任ですが、被害者の相続人は、製造業者に対し、実際に負担した治療費、葬儀費用、被害者本人の慰謝料、被害者の逸失利益等を請求することができます。

次に、食品衛生法6条は、「不潔、異物の混入・添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがある」食品等の販売等を禁止しています。法人である製造業者が、6条に違反した場合には、1億円以下の罰金に処せられる可能性があります(食品衛生法88条1号)。

——伊勢定を出店させていた京急百貨店側の責任は問われますか。

京急百貨店は、伊勢定とテナント契約を締結し、テナント料を得ているわけなので、伊勢定の不法行為に対して、百貨店も責任を負うべきではないかという考えもあるでしょう。

他人の不法行為に対し損害賠償責任を負う理屈として、使用者責任(民法715条)があります。使用者責任が認められるためには、「ある事業のために他人を使用」したことが要件となりますが、これは事実上の指揮監督の下に他人を仕事に従事させることを意味します。百貨店は、テナントに場所を提供しているだけであり、事実上の指揮監督の下、仕事に従事させているわけではありません。

したがって、京急百貨店には使用者責任は認められないと考えます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

大橋 賢也
大橋 賢也(おおはし けんや)弁護士 川崎エスト法律事務所
神奈川県立湘南高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。平成18年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、成年後見、債務整理、交通事故等、幅広い案件を扱う。一人一人の心に寄り添う頼れるパートナーを目指して、川崎エスト法律事務所を開設。趣味はマラソン。

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