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クレームのつもりが「カスハラ客」扱い? アンガーマネジメントのプロに聞く「怒りの伝え方」
カスハラとアンガーマネジメント(NOV / PIXTA)

クレームのつもりが「カスハラ客」扱い? アンガーマネジメントのプロに聞く「怒りの伝え方」

客から従業員への暴言や不当要求といった迷惑行為「カスタマーハラスメント」(カスハラ)。東京都がカスハラ防止条例の制定を進めたり、企業が対策に乗り出したりしている。

カスハラのもとになる感情の一つが怒りだ。怒りのコントロール方法を学ぶ講座を開く「日本アンガーマネジメント協会」の戸田久実代表理事は、上手なクレームのポイントはアンガーマネジメントと「伝え方」にあるという。怒りとどう向き合うかを聞いた。(ライター・国分瑠衣子)

●怒りは自然な感情 自分の「怒りのパターン」を知る

――そもそも怒りはなぜ生まれるのでしょうか。

「怒りは、自分自身の『こうあるべき』という考えが、その通りにならないときに生まれます。『こうあるべき』『こうするべき』は、自分の願望や期待、譲れない価値観を象徴する言葉です。願望や期待の通りにならなかったときに怒りが生じるということです。

どんな『べき』が自分にあるか知っておくことで、怒りを感じるパターンが見えてくると思います。人によっていろいろなパターンがあります。例えば私の場合は、特別な理由がある場合は別として、時間や期限が守られないことにイラっとすることがあります。怒りを感じるのは悪いことではありません。大事なのは自己認識です。

喜びや悲しみと同じく、怒りは自然な感情です。ただ他の感情よりもエネルギーは強い。だから扱いにくいんです」

●クレームは事実とリクエストを伝える

――顧客が従業員に暴言や不当要求をする、カスハラが社会問題になっています。消費者の中には「クレームを言いたいけれどもカスハラだと思われないか」と、心配する声もあります。

「クレームは相手に伝えていいんです。ただし、正当なクレームとして受け取ってもらえるような伝え方が大事です。自分の期待値にサービス内容が届かなかった場合に不満を感じ、クレームに至るケースが多いと思います。まさに自分の『べき』が守られなかったときですので、怒りを感じることがあります。

アンガーマネジメントの講習では『怒りを表現するときは、リクエストとして伝えましょう』とアドバイスしています。クレームを伝えるときも同じです。

例えば飲食店で予想以上に長く待たされたとしましょう。

『オーダーした料理が30分たってもきません。後で頼んだ隣のテーブルには料理がきています。どんな状況か教えてください』というように、『30分待っている』『後で頼んだ隣のテーブルには料理がきている』という事実を伝えた上で、リクエストすることは正当なクレームです。

商品も同じです。買った商品が壊れていたら新品と交換してほしいとか、返金してほしいとか、要望はあるはずです。会社や店舗側がリクエスト通りに受け入れてくれるかどうかは別として、第一段階の要望を伝えること自体は問題ないと思います」

●イラっとしたときに、理性が働くまでは約6秒

画像タイトル 「日本アンガーマネジメント協会」の戸田久実代表理事

ーー怒りによる衝動的な行動をしないために、自分ができる努力はありますか。

「講習では『イラっとしたときに、理性が働くまでは約6秒』と伝えています。

6秒数えて我慢しましょう。ということではありません。6秒をやりすごすために、0から10まで怒りの点数をつけてみるんです。ゼロはまったく怒りを感じない状態、10は全身が震えるほどの人生最大の怒りです。『この怒りは何点だろう』と点数に意識を向けているうちに、6秒がたち怒りを客観視できます。

一番やってはいけないことは、怒りに任せて暴力的な行為に出たり、暴言をはいたりすることです。これは当然カスハラに該当しますし、後悔する人もいるでしょう」

――海外でカスハラのようなケースはあまりないと聞きます。

「海外はサービスを提供する側とお客さんが対等で、背景として人権尊重の意識や、リクエストの伝え方の上手さがあるのだと思っています。

一方、日本は『お客様は神様』という言葉が誤った解釈で広がっていて、サービス業の人はお客さんのいいなりになるものだという間違った認識を持つ人がいます。サービス業向けの研修では『顧客満足というのは決して顧客の言いなりになることではありません』と伝えています」

●正当なクレームなのにカスハラ客扱い 本当のモンスターにしてしまう恐れ

――戸田さんは、カスハラ対策として、企業側へのアンガーマネジメント研修もしています。何か気付くことはありますか。

「顧客の怒りに振り回されると過剰に反応し、適切な判断ができなくなる人や、お客さんが怒っていると思った瞬間に恐怖を感じる人がいます。

適切な判断ができなくなると、実は正当なクレームなのに、カスハラと分類する人がいます。そうすると『あの人、カスハラのお客さんです』と上司に引き継ぐ。上司が二次対応で、カスハラ客として対応したら、カスハラ客として扱われたことにお客さまが怒り、本当のモンスターになることがあるんです。名誉毀損などの法的な問題に発展するケースもあり、実際にそうした相談は何度も受けています。

職場でカスハラ被害にあって嫌な思いをしたから、客の立場になったときに感情を思い切りぶつけてしまうという人もいます。罪悪感を持ち、何とかしたいとトレーニングを受けに来るんです。

日本アンガーマネジメント協会が目指すのは、怒りの連鎖を断ち切ることです。顧客も事業者も自分の怒りをうまく扱えるようになれば、カスハラの連鎖はなくなると思っています」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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