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「まさか」パラアスリートを襲った誹謗中傷、投稿者は「圧倒的格上」の日本代表だった…パラ五輪開幕直前の衝撃判決
小野寺朝子さん(本人提供)

「まさか」パラアスリートを襲った誹謗中傷、投稿者は「圧倒的格上」の日本代表だった…パラ五輪開幕直前の衝撃判決

自身のブログに匿名で名誉を傷つけるコメントを書き込まれたとして、パラアーチェリー選手の小野寺朝子さんが損害賠償を求めていた裁判で、東京地裁は8月6日、名誉毀損を認めて、同じパラアーチェリー選手でパリ・パラリンピック日本代表の重定知佳さんに約124万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

小野寺さんは弁護士ドットコムニュースの取材に「重定さんによる書き込みとはまったく想像もしていなかった」と振り返る。

民事で損害賠償請求訴訟を起こすつもりはなかったが、投稿者だと特定された重定さんが変わりなく競技大会に出場していたことに失望したという。

「重定さんは私より成績は圧倒的に格上の存在でしたが、今回の投稿にも、それが発覚した後にも、スポーツマンシップは感じられず、同じスポーツ界で活動するアスリートとして許してはいけないと思いました」

重定さんは投稿と同じ年に開催された東京パラ五輪にも日本代表として出場。パリ・パラ五輪は8月28日に開幕し、重定さんは出場予定だ。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●「投稿は卑劣」判決に満足

2021年1月5日、競技に関する小野寺さんのブログに、匿名で次のような2つのコメントが書き込まれた。

「いい加減もう東京パラも無理だし代表入りも無理なの気づきませんか?悪あがきもほどほどにした方がいいですよ」

「ルール違反してない?してるから言ってるんですけど。車いすに乗って競技してはいけないのに車いすに乗ってますよ」

書き込み当時は2021年の東京五輪・パラ五輪開催から半年ほど前にあたる。投稿者と特定されたのは、東京パラ五輪の日本代表として出場した重定選手だった。

東京地裁の大久保紘季裁判官は「東京パラ五輪の代表選考時期に、関係者と思しき匿名の人物から身に覚えのない投稿を立て続けにされ、開示請求によって投稿者が自身のライバルである重定さんと知るに至った小野寺さんの精神的苦痛は相当なもの」「投稿は卑劣なものというほかない」と厳しく指摘した。

小野寺さんは弁護士ドットコムニュースの取材に「投稿の内容が名誉毀損と認められましたが、それ以前にスポーツマンシップがありません。裁判所にはいけないことはいけないと正当に判断していただきました。賠償額も大きく、驚いております」と話す。

●小野寺さん「重定さんは雲の上の人。間違いではないかと思った」

小野寺さんによれば、この裁判に至るまでの経緯は少し入り組んでいる。

ブログの書き込みを見つけた際に、小野寺さんの頭によぎったのは、とあるアーチェリーの競技団体だった。小野寺さんによれば、2019年、この団体は、矢の紛失をめぐる書類の不備を問題として、小野寺さんが競技施設を使うことを1年間停止とした。

小野寺さんが裁判所に処分取消しを求める仮処分を申し出たところ、団体は処分を取り消したものの、今度は小野寺さんの入会を拒絶した。

このようなやりとりがあったため、小野寺さんとしては当初「団体による嫌がらせの投稿か、私のアンチファンによるものではないか」と疑った。

「この団体を疑ってしまったことは非常に軽率だったと反省しています」(小野寺さん)

判決を伝える当初の報道では、2人をライバル関係に位置付けて紹介する記事もあったが、小野寺さんによれば、今回の件は「代表の枠をギリギリで争うようなライバルが嫌がらせをした」というわかりやすいストーリーではないという。

日本身体障害者アーチェリー連盟(日身ア連)が公表している2021年度〜2023年度のランキングでは、リカーブ女子の部門で、重定さんが1位、小野寺さんが2位につけている。しかし、いずれも点差は大きい。

「重定さんの実力は圧倒的です。私からすれば月とスッポンで、雲の上の存在です。アーチェリー関係者は皆そう思っているはず。だからこそ、私も周囲も重定さんとは想像すらしていなかったし、私に嫉妬や嫌がらせをする必要があったのかまったくわからず困惑しました。信じられないし、間違いだと思ってしまったほどです」

小野寺さんは、重定さんとは競技で年に1〜2回顔を合わせて挨拶する程度の関係で「確執もない」とする。

●中傷投稿の相手とトーナメントで戦う気まずさ

東京地裁が2022年5月、投稿者の発信者情報開示を命じて、同年6月に小野寺さんにも情報が伝えられた。

日身ア連は、競技者等行動規範で、競技者らへの名誉毀損行為を禁止している。また、競技者の行動規範違反を知った場合には連盟への報告も義務づけている。

小野寺さんは同月、日身ア連などに重定さんの投稿を報告。さらに懲戒請求も申し立てた。

ここまでは、あくまでスポーツマンシップ違反と捉え、すでに進めていた刑事告訴の取り下げも視野に入れただけでなく、民事訴訟の提起までは考えていなかったという。

ところが、その間に重定さんは国内外での競技や大会への出場を続けていた。法的に名誉毀損を確定させようと考え、同年11月に今回の裁判を提訴した。

「開示請求訴訟の判決後も、何度かトーナメントで対戦して向き合う機会もあり、不快な思いをしました。相手の代理人から連絡はあっても、本人から直接の謝罪はありません。開示請求にも少なくない弁護士費用がかかりますし、次の損害賠償請求訴訟を戦うためにも、改めてバイトして費用を稼ぎました」

小野寺さんによれば、日身ア連からは「小野寺さんと重定さんの訴訟が終わってから重定さんの処分を検討する」という考えを伝えられたという。

●「ノーコメント」の重定さん、小野寺さんは控訴の行方を見守る

取材を求めたところ、重定さんからは代理人弁護士を通じて「ノーコメント」の考えを伝えられた。ただ、新聞などには控訴する方針も報じられている。

小野寺さんは地裁判決には納得しており、「こちらから控訴する理由はない」としている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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