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不倫の代償は「モラハラと経済的DV」 夫の冷たい態度に、不貞した妻が涙「離婚は認められますか?」
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不倫の代償は「モラハラと経済的DV」 夫の冷たい態度に、不貞した妻が涙「離婚は認められますか?」

「自分の不倫を契機に、夫から毎日責められ、生活費もまともに負担してもらえていない」。こんな経済的に苦しんでいる女性からの相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

女性が数年前に不倫した後、再構築を目指すことになりました。しかし夫は給料や貯金額などは教えないようになりました。住宅ローン、光熱費、学費はなんとか夫に負担してもらってますが、食費、医療費、その他雑費はすべて女性負担。月々のパート代約10万円では賄えず、子どもの貯金を切り崩してやりくりせざるを得ないほど経済的に苦しいようです。

夫は趣味のゴルフや釣りの道具を好き放題に購入し、毎日「鬱になったし、もっと慰謝料払え」などと女性の不貞を責め続けてきます。

体調を崩すほど苦しい生活が続いているため離婚を考えることもあるそうですが、不倫をした側からの離婚請求は認められるのでしょうか。小林哲平弁護士に聞きました。

●有責配偶者からの離婚請求「例外的に認められることも」

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──不倫をした側から離婚を求めることはできるのでしょうか。

相談者の女性が不倫したことをきっかけとして夫婦関係に亀裂が生じたのだとすると、この女性は「有責配偶者」に該当すると考えられます。

「有責配偶者からの離婚請求は認められない」ということを聞いたことがある方もいるかもしれませんが、これはやや不正確な情報です。正確には、「離婚訴訟で判決が出される場合、原則として有責配偶者からの離婚請求は認められない」というべきです。

訴訟ではなく、協議や調停で相手方配偶者が離婚に応じれば、有責配偶者からの離婚請求の事案でも離婚は可能です。

一方で、相手方配偶者が離婚に応じない場合には、協議や調停で離婚することはできないため、有責配偶者がなお離婚を求めるのであれば訴訟を提起するほかありません。

訴訟においても、途中で条件面の折り合いがつくなどして、相手方配偶者が離婚に応じる場合には、訴訟上の和解により離婚することが可能です。

訴訟で和解による離婚ができない場合には、判決が出されることになりますが、この場合は有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。

──「原則として」ということは例外があるのでしょうか。

はい、例外的に、以下の(1)~(3)の条件を総合的に見て、裁判所が有責配偶者からの離婚請求を認めてもよいと判断した場合には、有責配偶者からの離婚請求であっても離婚が認められることになります(最高裁昭和62年9月2日判決)。

(1)別居期間が相当長期間に及んでいる
(2)未成熟子が存在しない
(3)離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するような特段の事情がない

(1)の「相当長期間の別居」とは、おおむね10年以上の別居期間を指すと考えられていますが、8年程度の別居期間でも有責配偶者からの離婚請求が認められた事案もあります(最高裁平成2年11月8日判決)。

(2)の「未成熟子」とは、社会的・経済的に自立していない子を指します。成人年齢を超えていても経済的に自立できていない子も含まれます。ただし、当事者の間に6歳と4歳の子がいる事案(東京高裁平成26年6月12日判決)や12歳と10歳の子がいる事案(福岡高裁那覇支部平成15年7月31日判決)などで、有責配偶者からの離婚請求が認められていることから、未成熟子の不存在という条件は絶対的なものとは考えられていません。

(3)の「特段の事情」については、相手方配偶者が離婚で精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれることなどが一例です。

●有責配偶者の離婚請求が認められるハードルは高い

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──相談者についてはどうでしょうか。

相談者が離婚したいと考える場合には、まずは夫との話し合いで離婚ができないか(協議離婚又は調停離婚ができないか)を探るべきといえます。

夫が離婚に応じる余地がない場合でも、現に同居した状態ならば、仮に訴訟となっても(1)の条件をクリアできないため、判決で離婚が認められる可能性はほぼありません。

離婚を見据えるのであれば、まずは別居するという選択肢も検討の余地がありますが、仮に夫が離婚に応じない場合にはかなり長期間の別居を覚悟する必要があります。

──経済的に追い詰められていることは離婚請求にどう影響しますか。

夫が十分な生活費を渡していないように見受けられる点は、いわゆる「経済的DV」と評価される可能性はあります。

しかし、夫が協議や調停で離婚に応じず、前述した訴訟に至った場合には、夫が経済的DVに当たるような行為をとっていたという一事をもって、直ちに有責配偶者からの離婚請求が認められるようになるとは考え難いと思われます。

ただし、妻に不貞行為があったとしても、夫がこれを許し、通常の夫婦関係に戻った後に、婚姻関係が破綻した場合には、妻の離婚請求は許されるとした裁判例があります(東京高裁平成4年12月24日判決)。

この裁判例を前提とすると、今回のケースにおいて、夫が相談者の女性の不貞行為を許して通常の夫婦関係に戻った後に、夫による経済的DV等が原因で夫婦関係が破綻したというような事情が認められれば、訴訟に至った場合でも離婚が認められる可能性はあるといえます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

小林 哲平
小林 哲平(こばやし てっぺい)弁護士 弁護士法人千里みなみ法律事務所
大阪弁護士会所属。弁護士資格のほかに臨床心理士資格を保有。著書に『弁護士・臨床心理士の両視点にみる 面会交流―当事者心理と実務のポイント―』(新日本法規出版)がある。

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