人気アイドルグループAKB48において、メンバーが過労による体調不良でコンサートや握手会などのイベントを休演する事態が相次いでいる。この4月だけでも、松井珠理奈さんや板野友美さん、渡辺麻友さんといった人気メンバーが休養を余儀なくされており、テレビなどの各種メディアで昼夜を問わず活躍している彼女たちを目の当たりにしているファンからは、さすがに働きすぎなのではないかと心配する声が上がっている。
AKB48に限らず、いまをときめくアイドルは、一体いつ休んでいるのかわからないほどに様々なメディアでその姿を見ることができる。アイドルたちと一般的な会社員とは、仕事内容は異なるもののおよそ仕事をしているという点で変わるところはない。会社員には過度の労働負担から従業員を守る労働基準法が適用されるのは周知の通りだが、それではアイドルにも労働基準法は適用されるのだろうか。
労働契約に詳しい好川久治弁護士によると、
「労働基準法の適用があるかどうかは、同法第9条の『労働者』にあたるかどうかによって決まります。言い換えれば、使用者の指揮監督下で労務を提供し、その対価として賃金を取得する関係にあれば『労働者』に該当し、労働時間規制等の保護を受けられるわけです。」
「アイドルなどの芸能人は、一般的に所属事務所との間でマネジメント契約を締結する個人事業者である場合が多く、労働基準法の適用はありません。但し、芸能人でも、仕事を断れないとか、時間や場所を拘束され、時間に応じて報酬が変動するなど、労働者と変わらない実態があるなら労働基準法が適用されることがあります。」
「過去の裁判では、芸能プロダクションと専属のマネジメント契約を締結していたあるタレントが、一方的に契約解除を申し出たことにより芸能プロダクションに損害を与えたとして、芸能プロダクション側から損害賠償を求められた裁判があります。この裁判において、裁判所は、そのタレントは実態において事業に使用されている労働基準法上の『労働者』に該当し、その結果、労働者に認められる『退職の自由』があると判断しました(※1)。」
「このほかにも、労働者と認定されれば、芸能活動中の事故や病気について労災申請が可能となったり(※2) 、有給休暇や残業代を請求できたりすることになります。」
とのことで、アイドルが所属事務所とマネジメント契約を結んでいて、外形的には個人事業者の地位にある場合でも、その働き方の実態次第では労働者に該当するとして労働基準法が適用されることになるようだ。
最近では、タレントの小倉優子さんが所属事務所にマネジメント契約の解除を求めた裁判にて、タレントは労働者であり、マネジメント契約で定められた契約期間に拘束されず、自由に退職することができるという主旨の判決が出たという報道もあった。芸能人の労働者性について注目を集めた判決ともいえよう。
メディアから引っ張りだこの状態が続くAKB48だが、彼女達にも働き方の実態によっては、労働基準法の適用が認められる可能性があるかもしれない。いずれにしてもファンを心配させないために、過度な仕事スケジュールで体調を崩さないように気をつけてほしいものだ。
※1 東京地方裁判所平成19年3月27日判決・専属契約不存在確認等請求反訴事件
※2 東京高等裁判所平成14年7月11日認容判決・遺族補償費不支給処分取消請求控訴事件